企画展
ミニマル/コンセプチュアル ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術
Minimal/Conceptual: Dorothee and Konrad Fischer and the Art Scenes in the 1960s and 1970s
ミニマル・アートという言葉は、作家の個性を示すような表現性を捨て去り、幾何学的で単純なかたちの絵画や彫刻を制作した、1960年代アメリカの新しい美術動向の呼称として広まりました。その代表的な作家であるカール・アンドレとダン・フレイヴィンは、自ら手を動かすことをやめ、工業的に生産された金属の板やブロック、既製の蛍光灯などを用いて作品を制作しました。そうした状況のなかで、ソル・ルウィットは物理的な作品よりも、その構成の規則となるコンセプトこそが重要であるとして、コンセプチュアル・アートへの道を開きます。
アートにとって最も重要なのはコンセプトであるとする考え方は、同時多発的に国際的な広がりをもっていました。たとえば、ドイツのハンネ・ダルボーフェンは、数字の計算という思考の過程それ自体を作品として提示し、ニューヨークを拠点とした河原温は、起床時間を記した絵葉書を知人に毎日送り続けました。フランスのダニエル・ビュレンは、場を異化するストライプ模様を街中などのさまざまな場所に設置し、イギリスのギルバート&ジョージは、自らを生きた彫刻とみなし、彼らの日常それ自体がアートであると考えました。
ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻は、1967年にデュッセルドルフにギャラリーを開き、同時代の国際的な動向をいち早く紹介しました。本展では、ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館の全面的な協力のもと、フィッシャー・ギャラリーが保管していた貴重な作品や資料、ならびに日本国内に所蔵される主要な作品を通じて、全18作家の活動から1960-70年代のミニマル・アートとコンセプチュアル・アートを振り返ります。
基本情報
- [会期]
- 2022年1月22日(土)~3月13日(日)
- [会場]
- 愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
- [開館時間]
- 10:00〜18:00
金曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで) - [休館日]
- 毎週月曜日
- [観覧料]
- 一般 1,400(1,200)円
高校・大学生 1,100(900)円
中学生以下無料
※( )内は前売券および20名以上の団体料金です。
※上記料金で、同時開催のコレクション展もご覧になれます。
※「身体障害者手帳」「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」のいずれかをお持ちの方、また、その手帳に「第1種」または「1級」と記載のある方に付き添われる方は、1名まで各料金の半額でご観覧いただけます。愛知県美術館チケット売場またはローソンチケット(Lコード:42127)にてお買い求めいただき、当日会場で、各種手帳(ミライロID可)をご提示ください。
※チケットは愛知県美術館チケット売場、各種オンラインチケット、主要プレイガイドなどで販売します。 - [主催等]
[主催] 愛知県美術館、日本経済新聞社、共同通信社
[共催] ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館
[後援] 大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館、ゲーテ・インスティトゥート東京
[協力] 日本航空
出品作家
カール・アンドレ、ダン・フレイヴィン、ソル・ルウィット、ベルント&ヒラ・ベッヒャー、ハンネ・ダルボーフェン、河原温、ロバート・ライマン、ゲルハルト・リヒター、ブリンキー・パレルモ、ダニエル・ビュレン、リチャード・アートシュワーガー、マルセル・ブロータース、ローター・バウムガルテン、リチャード・ロング、スタンリー・ブラウン、ヤン・ディベッツ、ブルース・ナウマン、ギルバート&ジョージ
見どころ
ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻は、1967年にデュッセルドルフにギャラリーを開き、同時代の国際的な美術動向をいち早く紹介しました。当時の若い作家たちは、1950年代にアメリカを中心に大きな影響力をもっていた抽象表現主義と呼ばれる動向に対して、憧れを抱きつつも同時に反発もしていました。彼らは、抽象表現主義の絵画に認められる、直観的な色彩やフォルムの配置、絵具に残された身振りの痕跡といった作家の個性を示すような表現性を捨て去って、幾何学的で単純なかたちの絵画や彫刻を制作しました。こうした新たな動向は、批評家たちによってミニマル・アートと呼ばれ始めます。
ドロテ・フィッシャーとコンラート・フィッシャー
1969年 (撮影:ゲルハルト・リヒター) Photo: Gerhard Richter
その代表的な作家のひとりであるカール・アンドレを、フィッシャー・ギャラリーは最初の展覧会で取り上げました。アンドレは工業的に生産された金属の板やブロックを用いて作品を制作しました。従来、作家によって完成された作品は、確固たる存在としてその地位が保証されてきましたが、互いに固定されることのなく床に並べられたアンドレの作品は、容易に解体され再構成されうるもので、作品を一切改変できないものとする考え方を大きく揺るがしました。同様に1960年代にフィッシャー・ギャラリーで紹介されたダン・フレイヴィンは、既製品の蛍光灯を用いて作品を制作しました。人工の光を用いて作品を制作する作家はほかにもいましたが、多くの作家が自由に変形できるネオン管を用いたのに対して、フレイヴィンはあえて規格化された蛍光灯を用いて、制作に直観的な判断が入り込む余地を排除したのです。ソル・ルウィットが、1968年にフィッシャー・ギャラリーで発表した新作《隠された立方体のある立方体》を実現するために、コンラート・フィッシャーに送った作品の制作指示書は、当時のミニマリストの作品制作のあり方をよく示しています。作品はもはや作家の手を一切介さずに、各部の寸法や塗装の方法などが記された制作指示書を通じて、技術者によって実現されたのです。
図版左から:
フィッシャー・ギャラリーにおけるソル・ルウィット《隠された立方体のある立方体》の展示
1968年 © 2021 The LeWitt Estate; Photo: Fred Kliché
ソル・ルウィット《隠された立方体のための提案》
制作年不詳 ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館 © 2021 The LeWitt Estate; Photo: Achim Kukulies, Düsseldorf
ミニマリストたちによって、新たなアートのあり方が提示されていく状況のなかで、芸術制作において最も重要なのは、作品の構成を決定するコンセプトであるという考え方が現れはじめます。先述のソル・ルウィットは、1967年に「コンセプチュアル・アートに関する断章」というテキストを発表するとともに、制作のコンセプトそれ自体を積極的に公開していきます。1975年のフィッシャー・ギャラリーにおける個展の招待状には、同展で発表された壁面ドローイングを制作するために、技術者に伝えられた制作指示が記されています。物理的な作品よりもコンセプト自体を重視していく態度は、数字の計算という思考の過程を提示するハンネ・ダルボーフェンや、起床時間を記した絵葉書を知人に毎日送り続けた河原温にも認められます。二人組の作家であるギルバート&ジョージは、自らを「生きた彫刻」とみなして、彼らの日常それ自体がアートであると考えました。それゆえ物理的な作品として残されるのは、彼らの行為の記録であって、たとえば《アーチの下で(ボックス)》は、「歌う彫刻」として彼らが各地で実演した際の、記録写真や招待状などを収めたものです。
図版左から:
ソル・ルウィットの展覧会「4つの壁の4つの縁から生じる線」の招待状
1975年 ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館 © 2021 The LeWitt Estate; Photo: Achim Kukulies, Düsseldorf
ギルバート&ジョージ《アーチの下で(ボックス)》
1969年 ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館 © 2021 Gilbert & George; Photo: Achim Kukulies, Düsseldorf
1960-70年代は、社会的な変革と連動しながら、アートにおける新しい価値観が次々に生まれた時代でした。そこで生まれた価値観や考え方は、今日の現代美術の源流をなすものであると言っても過言ではないでしょう。本展では、デュッセルドルフのノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館の全面的な協力のもと、フィッシャー・ギャラリーが保管していた貴重な作品や資料、ならびに日本国内に所蔵される主要な作品を通じて、全18作家の活動から1960-70年代のミニマル・アートとコンセプチュアル・アートを振り返ります。
図録
『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』
3,500円(税込)※ミュージアムショップ特別価格
全328ページ
[発行]株式会社共同通信社
[ISBN-13]978-4-7641-0730-4
関連イベント
■記念講演会「表象の分化──ドロテ&コンラート・フィッシャー・コレクションから辿る現代美術の系譜」
[講師]沢山遼(美術批評)
[日時]1月30日(日)13:30-15:00
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着70名(申込不要・聴講無料)
・講師紹介
本展カタログ寄稿者。岡山県生まれ。武蔵野美術大学大学院造形研究科修士課程修了。著書に『絵画の力学』(書肆侃侃房、2020年)、共著に『絵画との契約 山田正亮再考』(松浦寿夫、中林和雄ほか著、水声社、2016年)『現代アート10講』(田中正之編著、武蔵野美術大学出版局、2017年)などがある。
■オンライン・レクチャー「ミニマルな感性 – シリアルな姿勢 – コンセプチュアルな手段:1965年から1969年にかけての新しい芸術」
[講師]奥村雄樹(アーティスト/翻訳者)
[日時]2月6日(日)17:00-18:30
※オンライン上での開催となります。参加方法はこちらをご確認ください。
・講師紹介
国際芸術祭「あいち 2022」出展作家。青森県生まれ。東京藝術大学大学院博士後期課程修了。主な作品に 《孤高のキュレーター》(2021 年)、《彼方の男》(2019 年)、《帰ってきたゴードン・マッタ = クラーク》 (2017 年)、《奥村雄樹による高橋尚愛》(2016 年)、《グリニッジの光りを離れて──河名温編》(2016 年) などがある。近年はコンセプチュアル・アートの原理と歴史について、とりわけ身体的存在としてのアーティストという観点からリサーチとレクチャーを国内外で展開している。
■奥村雄樹《彼方の男》上映会
本展の関連企画として、出品作家である河原温とスタンリー・ブラウンにまつわる記憶を題材とした、奥村雄樹による映像作品《彼方の男》の上映会を開催します。
[上映作品]奥村雄樹《彼方の男》2019年、HDヴィデオ、116分15秒
[日時]2月26日(土)13:30-15:30(13:15開場)
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着70名(申込不要・参加無料)
[協力]MISAKO & ROSEN(東京)/LA MAISON DE RENDEZ-VOUS(ブリュッセル)
フィッシャー・ギャラリーで数々の展覧会を開催した、河原温とスタンリー・ブラウン。奥村雄樹による《彼方の男》は、この二人のコンセプチュアル・アーティストの双方と交流のあった9人の関係者に対して実施された、一連のインタビューによって構成されています。ただし、登場する9人の語り手は、奥村が課したインストラクションにより、河原とブラウンの名前を呼ぶことなく、「彼」という代名詞を通じてのみ二人に言及します。決して公の場に姿を現さなかった二人の作家は、関係者の交錯する回想において重ね合わされ、謎に包まれた一人の人物として立ち現れていきます。
9人の語り手は、マリア・ブルーム、ミシェル・クロウラ、ヘルマン・ダレッド、ミシェル・ディディエール、ルディ・フックス、イヴ・ヘヴァルト、カスパー・ケーニッヒ、ジャン=ユベール・マルタン、フィリップ・ファン・デン・ボッシュ。作品はイシ・フィズマンとの思い出に捧げられます。
■スライドトーク(学芸員による展示説明会)
[日時]1月29日(土)、2月6日(日)、2月26日(土)各回11:00-11:40
2月18日(金)18:30-19:10
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]各回90名
※申込不要・聴講無料、開始時刻に会場にお集まりください。