作品の保存について
愛知県美術館では、作品をより多くの人に楽しんでいただくため、そしてより良い状態で後世に伝えていくために、保存に関する取り組みを行っています。
IPM活動
IPM(Integrated Pest Management:総合的有害生物管理)とは、人や環境にとって有害な薬剤を使用せずに虫や菌による作品への被害を予防しようという考え方です。日々の清掃や、温湿度の管理、生物の発生状況のモニタリングなど、日常的な管理を徹底することで、環境を維持します。もともと農業の分野から始まった考え方ですが、今では多くの美術館や博物館で積極的に取り入れられています。
保存のための調査
作品をより良い状態で保存するためには、作品の構造や現状を調査することがとても重要です。
目視に加え、紫外線や赤外線、エックス線(いわゆるレントゲン)などを使用することもあります。特にエックス線調査は、表面からは見えない内部の構造や、下層に隠れた損傷を見つけることができます。こういった作品の状態に関わる情報は、今後の保存方針を大きく左右する重要な情報です。
ときには作品の下層に別の絵が見つかることもあり、作家や作品の美術史的な研究に繋がることもあります。
フランティシェク・クプカ《灰色と黄金の展開》
フランティシェク・クプカ《灰色と黄金の展開》
エックス線画像(左に90度回転)
古田浩俊「フランティシェク・クプカ《灰色と黄金の展開》(二)」『愛知県美術館研究紀要』 第20号(2013年度)
《不動明王立像》エックス線画像(正面)
《不動明王立像》エックス線画像(側面)
淺湫毅「木村定三氏旧蔵の木造不動明王立像について」『愛知県美術館研究紀要木村定三コレクション編』第19号(2012年度)
大原豊嘉「不動明王立像胎内納入如来形画像断片について」『愛知県美術館研究紀要木村定三コレクション編』第19号(2012年度)
修復
展示が難しいほどに傷んでしまった作品は、修復を施してから公開しています。美術館が行う修復は、見た目をきれいにすることだけが目的ではありません。作品の寿命が1日でも長くなるように、保存を目的とした無理のない修復を心がけています。
《高麗鉄地金銀象嵌鏡架》修復前
《高麗鉄地金銀象嵌鏡架》修復後
雨森久晃「木村定三コレクション「鉄製交椅」保存処置報告書」『愛知県美術館木村定三コレクション研究報告書3』(2011年度)