映像プログラム

第26回アートフィルム・フェスティバル

The 26th Art Film Festival

SHIMURAbros『Butterfly upon a wheel』2022年
主演:Juan Kruz Diaz de Garaio Esnaola
愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品
(写真提供:SHIMURAbros)

※「ご来館されるみなさまへのお願い」をよくお読みの上、ご来館ください。

特集 映画は、アクシデントではない

 「アートフィルム・フェスティバル」は、実験映画やビデオ・アート、ドキュメンタリー、フィクション等、従来のジャンル区分を越えて、独自の視点からプログラムを構成する特集上映会です。

 近年、スマートフォンやタブレット端末等、手近な機器でも動画の撮影が可能となり、事件や事故の現場に遭遇すれば、誰もがその瞬間を記録できる状況が生まれ、実際に「スクープ映像」等として、公開されるケースも珍しくありません。映画は1895年、フランスのリュミエール兄弟による「シネマトグラフ」公開に端を発する表現ですが、動きをともなう迫真的な記録を撮影したその日のうちに再現可能としたスピード感は、当時、驚きをもって受け止められました。

 その一方、「スクープ映像」は、事件の現場に立ち会ったのは間違いないけれども、それが起きた瞬間が手ブレ等により不鮮明な形でしか捉えられていないケースもままあります。つまり映像は、人々から期待されるような決定的瞬間を撮り逃してしまうメディアでもあり、現実にはそのようなケースの方が多い、とさえ言えるのかもしれません。

 ジャン=リュック・ゴダールが映画誕生100年となる1995年を見据え制作したビデオによる大作『映画史』(1988-98年)は、そのタイトルに反して、単純に時間軸に沿って映画の歴史を語り啓蒙するような内容となってはいませんが、そこにはアウシュヴィッツの悲劇を映画は十分に記録し切れなかった、との痛恨の思いが投影されている、という見方もあります。

 一方でアラン・レネが戦後、アウシュヴィッツに赴き撮影した『夜と霧』(1955年)や、アーカイブ映像を活用した松川八洲雄『ヒロシマ・原爆の記録』(1970年)のように、事後その本質に迫ろうとした作品や、東日本大震災直後に現地入りしながら、極力被災現場は撮らず、被災者の体験談を記録した酒井耕+濱口竜介「東北記録映画三部作」(2011-13年)といった作品も登場しています。

 本特集は、第二次大戦中に「命のビザ」を発給した杉原千畝を起点に、現在も続く難民問題について考察した、「愛知芸術文化センター・愛知県美術館オリジナル映像作品」最新第30作、SHIMURAbrosButterfly upon a wheel』(2022年)の初公開を契機に、映像が突発的な事件や事故にどう対応してきたか、歴史的経緯を踏まえ探求します。

基本情報

[会期]

2022年8月23日(火)、8月26日(金)~9月13日(火)

[会場]

愛知芸術文化センター12階
アートスペースA
(定員:100名)※新型コロナウイルス感染症の拡大状況により変更になる場合があります。

[休館日]

毎週月曜日

[観覧料]

無料

[主催等]

[主催] 愛知県美術館

見どころ

小特集1 コマ撮りの技法と表現の広がり

 オプチカル・プリンター(光学合成装置)が十分に普及しなかった日本の実験映画において、特殊効果的な技法を支えたのは主にコマ撮りでした。伊藤高志『SPACY』(1981年)の、空間が歪み見る者が映像に引き込まれるような幻覚的効果も、アニメーションと同様、ひとコマずつ地道に撮影することによって、得られたものでした。コマ撮りは、カメラが一台あれば可能な特殊効果であり、合成とくらべ比較的取り組みやすい面がある一方、単調な作業のくり返しには根気強さを求められます。石田尚志『フ―ガの技法』(2001年)、田口行弘『Cave』(2010年)、近藤亜樹『HIKARI』(2015年)等には、制作に費やした膨大な時間が、厚みとなって感じられるでしょう。ここでは所蔵作品を軸に、コマ撮りをベースにした表現の流れと広がりを概観します。

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伊藤高志『SPACY』(1981年)愛知県美術館蔵


 

小特集2 開館30周年 拾遺集

 今年開館30周年を迎える愛知芸術文化センターには、日頃の活動を通じ様々な映像が残されています。それらの中には日本映画新社(日映新社)が制作した『建設記録・愛知芸術文化センター』(1993年)のように、開館時には上映されたものの、現在では公開する機会を逸しているものもあります。一方、愛知県美術館では、コレクションの一分野として映像が設けられたのは2011年と比較的最近ですが、年を追いその本数を増しつつあります。本特集では、このような過程で収蔵しつつ、公開機会のなかった、ぷろだくしょん我S『原点』(1970年頃)や、北川民次が出演したFM AICHIのラジオ番組『話の広場』(1973年)を公開します。また、愛知県広報広聴課の提供により、当センターの前身に当たる愛知県文化会館を取り上げた『愛知県政ニュース』等、関連する映像も紹介し、これまでの活動を補完します。

日映新社『建設記録・愛知芸術文化センター』と『21世紀へのアートメッセージ』.jpg

日映新社『建設記録・愛知芸術文化センター』と『21世紀へのアートメッセージ』ともに1993年)のシナリオ表紙