[ 先生のためのプログラム:鑑賞学習実践例 ] 「ぴったりカードはこれ!」
実践のねらい
中学校の美術で心に残っていることを尋ねると、何を“したか”ということだけが心に残っているという解答が圧倒的に多いという。1週間に1時間あるいは1.5時間の授業しかない現状の中で、そのほとんどを制作にあてていては、描く・作ることが苦手な子にとっては楽しい思い出となるはずもなく、卒業後、「美術ってなんだったのだろう」となってしまう懸念がある。
そういった意味でも鑑賞の時間を充実させ、“見ることは楽しい”といった体験を大事にしたい。義務教育最後の3年間で“鑑賞の土台”を作り、卒業後ジャンルの異なったたくさんの作品に出会うことを生涯にわたって楽しめるようにつなげていきたい。
そこで、2011年度から2013年度に、愛知県美術館から愛知県内全ての小・中学校に配布された「あいパック」および「あいパックプラス」に入っているアートカード(今回は「あいパック」のカードを使用)と、ぴったりカードを用いて、入学まもない生徒に中学での鑑賞授業として、「ぴったりカードはこれ!」の授業を実践した。
作品をわかるための知識を持っていないから美術館には足を向けにくいという人も多いという。そうではなく、作品を見て感じていることは人それぞれであり、自分なりに楽しむことが大事であるということを伝えるための授業である。
実際の様子
準備・設定
詳しくは指導案参照
- 「あいパック」アートカード1セット40枚2セット
- 「あいパックプラス」ぴったりカード(色カード・感じカード)2セット
- アートカード作品の作者・作品名を紹介した一覧表(黒板掲示)
- 本時の記録ができるワークシート
1学級33~34名を男女混合の2グループに分け、1グループにアートカード1セット40枚を配布した。条件カードとして、ぴったりカードの色カード・感じカードから、色カード2枚、感じカード1枚を生徒に無作為に引かせ、全体に提示した(右記図のとおり)。その後、条件にぴったりな作品を選択する“ぴったりさがし”を、男女のペアを組んで2回行った。ペア間でコミュニケーションをとりながら、40枚のなかから1点の作品に絞り、選んだ作品についてペアで発表させた。
※条件は、色カードから2枚、感じカードから1枚を無作為に引かせ提示。
※提示の際、条件カードをラミネート加工した裏にマグネットを貼付しておくと黒板に掲示しやすい。
感想および今後の課題
「授業を振り返って」生徒の感想から
- 「同じ条件なのにとらえ方や見方が違っていて、とてもびっくりした。同じ作品だったとしても選んだ理由が全く違っていた。でも聞いていると“あーなるほど”と思えて、人の意見に納得できた。新しい発見があって楽しくおもしろかった。」
- 「一人一人思いや見方が違いました。理由を聞いて自分も共感できたことがよかったなと思いました。誰もが思うことが一緒なことはあまりないんだなと思いました。」
- 「色々な人の意見を聞けて、自分と比較したり賛同したりできて考え方が広がった。とらえ方がたくさんあるんだなとわかった。」
- 「人によって絵の感じ方が違うんだと思った。“明るい”という言葉をにぎやかととる人や色からとらえる人がいて、色々な“明るい”があることがわかった。」
- 「同じ作品を私は“明るい”と思っていたのに他の人は“冷たい”ととらえていて驚いた。人によって見方感じ方はかわることが分かったから、これからは“自分はこういうふうに見えたよ”と友達に話してみたいし、もっと聞いてみたいなとすごく思った。」
- 「今日初めて、作品から様々なことを読みとることができるのだなと思った。よく見てみると、だんだん色々なことが見えてきて楽しかったです。」
- 「同じ条件で探すから同じ絵を選ぶ人もいるけれど、人によっていろいろな見方がある。細かいところまで見ている人や全体的なイメージから気付く人もいた。だから美術っていろいろな見方があって奥が深い。発表すると人の考え方が知れるから楽しいなと思った。」
- 「絵は“見つけよう”という視点を変えるだけで、何度でも違う見方ができると思いました。色だけ見たら冷たくても細部の暖かそうな小物を見ると温かいと思える絵があって面白いなと思いました。」
- 「ペアといっしょに探したり感想を言い合ったりして、とても楽しく授業ができた。美術館も一度行ってみたいなと思った。」
- 「お互いに意見を交流し合うことによって、自分では気付けなかった新しい視点を知ることができるんだと感じた。色々聞くことによって、自分も想像力を向上させることができた。」
- 「自分では明るいと思っていた絵が他の人から見ると暗い絵だったり、冷たいと思っていた絵が他の人にとっては温かい絵だったりと、人それぞれ見方が違うなあと改めて思った。これからも絵をいろんな目線から見ていきたいと思った。」
- 「同じ条件のはずなのに選ぶものが全然違っていた。同じ作品を選んでいても思ったことや考えていたことが違って、人それぞれでとてもおもしろいと思った。今まで絵を色で見たことはあったけど、条件で見たことはなかったからこんな絵の見方もいいと思った。」
- 「鑑賞の授業で初めて発表した。条件に合うカードは全くないと思っていたけど、よく見ると条件に合っていたので、どの作品もいろいろな角度で見ると分かることがあるんだなと思った。またやりたいなと思った。」
今後の課題
- 6クラス200名の感想はまだまだあるが、生徒は思った以上によく考えて発表を聞けていた。年度当初に、見方感じ方は人それぞれであり美術の答えは一つではないことをつかませておきたいという意図は、この単元で達成できたように思う。
- 条件をつけることで、条件に合った“ぴったり”を探そうとアートカードの作品をよく見ることができた。40枚という枚数は適当であったと思う。また、作品を見ることに興味を持った子が多く、中学生にとってもアートカードは有効であったと思う。
- これまでは、作品を独りで黙って見て文章にするという体験が多かったとみられ、ペアと「相談しながら見る」(声を出す)ことや感想を発表すると「拍手で認めてもらえる」という体験も新鮮だったようだ。
- 時間が十分でなく(45分設定)発表のチャンスがなかった子もいるので、できればTTが望ましい。
- 人の意見を聞いて多くの子が共感するという体験は出来たようであるが、それに対する「意見」や「つっこみ」などの時間的余裕はなかった。このような意見交換ができると、より深い鑑賞につながっていくと思われるので、また違った単元構成の可能性を探りたい。」
当日の様子