[ 先生のためのプログラム:学校と愛知県美術館による鑑賞学習実践例 ] 「これって何?~表し方の広がり~」

対象作家・作品 草間彌生 ≪求道の輝く宇宙 2010≫
関連タイトル 日本文教出版 5・6下 P.18-19 「きょうかしょ びじゅつかん」
ねらい 現代を生きている作家の作品を、興味を持って意欲的に鑑賞しよう 
対象学年 5・6年生
指導の構成(流れ) 鑑賞(事前学習・学校)→ 鑑賞(会場)→ 鑑賞(学校)
実践案作成者 豊明市立双峰小学校教諭 小崎真

実践のねらい

  • 作品に描かれた内容をもとにして,自分の感じたことを大切にしながら,意欲的に読み取ろうとすることができる。
  • 一人一人が作品から感じ取ったことを仲間同士で認め合いながら,作品の読みを深めることができる。
  • 国吉康雄の他の作品を,意欲的に鑑賞しようとすることができる。

実際の様子

本実践では,国吉康雄の『誰かが私のポスターを破った』を教材として取り上げた。この作品は,中央に女性が憂鬱な表情で描かれ,背後に破られたポスターが描かれているが,このポスターに描かれた「人物」がポイントとなる。この「人物」の手が力強く描かれているため,女性よりも飛び出して見える。そのため,子どもたちの中には,女性の後ろに「本物の人がいる」と感じた意見があった。しかし,画面の中央左に描かれた「紙がめくれている表現」から,絵が貼ってあると考える子ども見られた。

国吉は,この作品を制作した当時,アメリカに在住しており,敵性外国人として扱われた。多くの在米日本人が収容所へ送られていく中,国吉はファシズムを批判することで,アメリカでの自分の立場を守っていた。  

国吉は,労働者を描いたベン・シャーンとも交流があり,破られたポスターは,このベン・シャーンが描いた,ファシズムに屈した労働者の姿である。そのポスターが破られたということは,ファシズムはもちろん,戦争を陰で推し進めている資本家全体を批判しているとも考えられる。つまり,国吉はポスターを破かれた状況にしたり,顔をはっきり見せないようにしたりすることで,自分の主題を隠し込むような形で表現しようとしたと考えられる。そして,女性の憂鬱な姿は,当時の社会情勢の中で,アメリカと日本の2つの国の間でアイデンティティが引き裂かれそうになった国吉の姿そのものであると想像される。  

そこで,今回の授業で焦点化していきたいのは,子どもたちの中でズレた認識となっている「背景は本物か絵か」という点である。子どもたちはで,背景を見て「実際に向こうに人がいる」とする意見と,「絵,あるいはポスターが破れている」とする意見の2つに分れた。この2つの意見を取りあげていくことで,子どもたちの考えを揺さぶり,より深い読みへと導くことができるのではないかと考えた。

感想および今後の課題

子どもたちは,背景に描かれている部分について,「絵(ポスター)か,本当に人がいるのか」というお互いの考えのズレを意識し合いながら,作品について個々の解釈を深めていくことができた。 

特に,制作年とされる「1943年」という年号を示したところ,「戦争」という時代を重ね合わせて考えていた。しかし,資料提示については,個々の見方や考え方を支えていく場合と,見方の広がりを狭めてしまうという場合があり,子どもたちの実態を把握しながら,「どの資料」を「どの程度」,「どのタイミング」で提示していくかが,授業のねらいと絡めて考えていく必要がある。

草間作品から見つけた内容を共有する様子
図版の上下が反転していることに気づいた児童
『水の宇宙船』で作品を鑑賞する様子
ビルのガラスの造形のおもしろさに気づく児童もいた
草間作品について個々の考えを共有する様子